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望ましい盲ろう者通訳とは
       ―ろうの通訳介助者の立場から―

NPO法人視聴覚二重障害者福祉センターすまいる
                         事務局長 石塚 由美子


初めに

盲ろう者とは、視力と聴力の両方に障害のある人のことを言います。障害の程度は様々ですが、 共通しているのは「移動」と「情報の入手」が困難なこと。そのために「手引き」と「通訳」を 務める通訳介助者が不可欠です。

大阪府では府内に在住する盲ろう者を対象に盲ろう者向け通訳介助者派遣制度を実施しています。 この制度は、社会福祉法人大阪障害者自立支援協会が府の委託を受け、コーディネート等をおこなっています。

盲ろう者には通訳介助券が年間750時間を上限として出されていますが、これでは通訳介助者が確保できるのは 1日2時間にも満たないという、大変厳しい状況です。

盲ろう者の不便さを少しでも軽減しようと、すまいるではこの制度の利用の他に、視覚障害者移動支援(ガイドヘルパー) の派遣もおこなっています。

■通訳介助員になるためには

年齢が20歳以上で、盲ろう者向け通訳介助者養成講座の研修を終了していなければなりません。

通訳介助者の務めには、聴覚的な情報を情報としての「通訳」と視覚的な情報としての「状況説明」、 移動するための「手引き支援」があります。単に会話等の内容を通訳するだけでなく、周囲の状況の変化、 人の出入り、発言者の表情や要旨など。逐一説明を加え、盲ろう者が迷わず身を処せるための気配りが大切です。

■派遣の流れ

①派遣時間と通訳介助者との待ち合わせ場所、時間、派遣事由、通訳介助の際に注意すべき事項、派遣員希望(通訳介助者の指名) を記入した派遣依頼書を、派遣事業先にファックスで送る。原則、派遣希望日の1週間前までに提出のこと。

②派遣事業先が依頼内容を確認し、通訳介助員を調整。

③登録通訳介助員の中から適切な人物を選び、必要な情報などを送付。

④利用者(盲ろう者)へ派遣する通訳介助員の名前を通知。

⑤通訳終了後は、「通訳介助活動報告書」により、その月分を翌月5日までに報告。



■通訳介助活動で心がけていること

1. ろう者の私は以前、健聴者から、「あなたは嫌なことを聞かずに済むから恵まれている」といわれたことがありました。 このとき、聞こえる人には、「聞きたくても聞けない」、「情報を自由に選択できない」という歯がゆさを分かって貰いにくい と理解しました。

ですから私は、盲ろう者には、たとえ嫌なことであっても、ありのままの情報を伝えるように務めています。目が見えないんだから・・・と 伝えないのは、結果的によくないと体得したのです。嫌なことには一切触れさせない、聞かせないという一見「思いやり」と 思える行動は、過保護で、社会生活の妨げになることが多いと分かりました。


2. 言葉は表現の手段だけでなく、思考の手段でもあるので、伝える嬉しさを感じます。私がある言葉をどう理解し、相手に どこまで伝えられるか、その通訳能力が問われていると意識しています。


みなさんへのお願い

最初に聞こえに障害があった盲ろう者が、ろう者の通訳者を求めることは少なくありません。ろう者の自然な手話と、 独自の文化・習慣を知っている介助者だと、安心するのでしょう。ですから、ろう者自身も積極的に活動してもらいたいです。


実際にあったエピソードを紹介しましょう。

ある盲ろう者が多くの人に訴えていたのに分かってもらえず口を突いた言葉。「私は言う。あほ」「行き詰まる」 「苦しい」「勉強が必要」「情報が欲しい」「私はあほ」「いろいろ教えてほしい」「一緒にやってほしい」

あなたならどのように読み取って理解するでしょうか?

その場にいたみんなが、「あなたはあほじゃないわ。私もわからないことがたくさんあるから、心配しなくてもいいよ。 一緒に勉強しましょうね」と答えたら、その盲ろう者は「ああ何度言っても通じない。やっぱり私は日本語が下手。もうあかんわ」と 落胆してしまいました。「私は言葉に壁があって意味のわからないことがあるので勉強をしたい!情報がほしい。分からないことが あったときは、いつでも一緒にいて教えてほしい(強調している)」それが本人の言いたかったことでした。

私がそのように訳したら、「その言葉は盲ろう者の口から出なかった。それは石塚さんの考えて言ってる。問題だよ」と指摘してくる人がありました。

でも本当に言いたいことを適切な日本語に表現し直す必要があります。下手すれば伝達経路がますます複雑になります。そうなると、この段階で 情報が抜け落ちたり、言葉の機微をつかみ取れずに誤り、間違った情報が入る危険があります。人間関係もまずくなるかもしれません。 コミュニケーションが間違った方へ進んだら改めて訂正する必要があります。

私の場合、触手話通訳の依頼を受けたとき、場合に応じて健聴者の手話通訳をお願いしています。

お互いに技術を出し合って一つになることが大切だと思っています。

ここが大切!

社会の差別的な意識や偏見が、障害者自身の自立や活動に影響を与え、生きる意欲を奪い、自らの心を閉ざさせてしまうことがあります。

その壁を取り除くには、盲ろう者を一人の人間として評価し、その人の持つコミュニケーション方法で気持ちを交わし、信頼関係を持つことが大切だと思います。